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岐阜地方裁判所 平成5年(わ)95号 判決

本店所在地

岐阜市桜木町二丁目二〇番地

丸佐興業株式会社

(右代表者代表取締役 佐藤貞夫)

本籍

岐阜市梅ケ枝町三丁目四四番地

住居

岐阜市桜木町二丁目八番地の三

会社役員

佐藤貞夫

昭和二年八月一日生

右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官奥村淳一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人丸佐興業株式会社を罰金一八〇〇万円に、被告人佐藤貞夫を懲役一年二月にそれぞれ処する。

被告人佐藤貞夫に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人丸佐興業株式会社は、岐阜市桜木町二丁目二〇番地に本店を置き、工事現場用仮設住宅の建設等を目的とする資本金二〇〇万円の株式会社であり、被告人佐藤貞夫は、同社の代表取締役として同社の業務全般を統括している者であるが、被告人佐藤貞夫は、同社の業務に関し、法人税を免れようと企て、仮設住宅建築外注費を水増し計上するなどし、これにより得た資金を簿外の仮名預金として蓄積するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  平成元年四月一日から平成二年三月三一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が九三二八万七六八九円であり、これに対する法人税額が三六四二万九七〇〇円であるのに、平成二年五月三一日、岐阜市千石町一丁目四番地所在の所轄岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二四一五万〇五六九円であり、これに対する法人税額が八七七万四九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額二七六五万四八〇〇円を免れた

第二  平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が四五九八万三二七一円であり、これに対する法人税額が一六四七万九三〇〇円であるのに、平成三年五月三一日、前記岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が八三二万九〇二九円であり、これに対する法人税額が二三五万九〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額一四一二万〇三〇〇円を免れた

第三  平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における同社の実際の所得金額が八六九〇万二三五七円であり、これに対する法人税額が三一八二万七八〇〇円であるのに、平成四年六月一日、前記岐阜北税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が四七四万三八二二円であり、これに対する法人税額が一三二万七六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額との差額三〇五〇万〇二〇〇円を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人本人兼被告人丸佐興業株式会社代表者佐藤貞夫の当公判廷における供述

一  被告人佐藤貞夫の検察官に対する供述調書

一  被告人佐藤貞夫の大蔵事務官に対する質問てん末書一一通

一  福住清武の検察官に対する供述調書

一  福住清武(二通)、佐藤美佐子(四通)、立松喜代子(三通)、平崎光二、西森義雄、鈴木孝郎、岩田佳規、藤田雅弘(二通)、松原博子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の査察官調査書(記録証第一四三号ないし第一五〇号、第一五二号)

一  登記官作成の登記簿謄本

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一三〇号)、査察官調査書(記録証第一五一号)、脱税額計算書(記録証第一七七号)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一三一号)、脱税額計算書(記録証第一七八号)

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の証明書(記録証第一三二号)、脱税額計算書(記録証第一七九号)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、各事業年度毎に法人税法一五九条一項(被告人丸佐興業株式会社については、さらに同法一六四条一項)に該当するところ、被告人丸佐興業株式会社については情状に鑑み同法一五九条二項を適用し、被告人佐藤貞夫については所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人丸佐興業株式会社については、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金一八〇〇万円に処し、被告人佐藤貞夫については、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年二月に処し、被告人佐藤貞夫に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、前判示のとおり、三期にわたり外注費の水増し計上等の方法により法人税を不正に免れた事案であるところ、ほ脱の規模において、ほ脱税額が合計七二二七万五三〇〇円に上り、ほ脱率も平均八五・八パーセントに達し、かつ期を重ねる毎に率が上昇しているなど、高額高率で悪質であること、ほ脱の手段において、下請け業者の経済的な弱みを利用して外注費の水増し請求書を作成させているうえ、税務当局の改善指導後も策を講じて脱税を継続するなど、悪質な点があること、動機においても、老後に対する不安に端を発するものとはいえ、秘匿した所得の現実の費消状況等にも鑑みると、酌むべき点に乏しいといわなければならず、被告人らは強い非難を免れない。

しかしながら、被告人らは、事実関係について調査・捜査の段階から一貫して認めるなど、反省の態度を示すとともに、今後同種の脱税を図ることのないよう、税理士の指導により経理の体勢を整備しようと努めていること、ほ脱した本税は全部納付済みであり、さらに所定の重加算税などの納付見込みもあること、被告人らには被告人佐藤貞夫に道路交通法違反の罰金前科があるのみであること、本件の発覚によりそれなりの社会的制裁も受けていることなど、被告人及び被告人会社のために有利な事情もあるので、これらの諸事情を総合勘案したうえ、主文の刑を量刑し、被告人佐藤貞夫に対しては、今回に限り刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部信也)

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